【ニューヨーク市長】急進左派のゾフラーン・マムダーニーが当選。しかしそれはMAGAトランプ派の敗北を意味するわけではない!【中田考】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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【ニューヨーク市長】急進左派のゾフラーン・マムダーニーが当選。しかしそれはMAGAトランプ派の敗北を意味するわけではない!【中田考】

《中田考 時評》文明史の中の“帝国日本”の運命【第3回】

 

(3)マムダーニー当選がいかに誤解されうるのか

 

 ゾフラーンは「民主社会主義者(Democratic Socialist)」を自称し、いわゆる左派進歩派とみなされる。ニューヨーク市長選では民主党中道派の支持を得ることが勝利の鍵とされてきた。しかし中道派の重鎮たちがゾフラーンの支持表明を渋ったという報道がある。

 彼の勝利は、「コスト高・住居・交通」の問題を前面に打ち出して若者、有色人種、移民バックグラウンド、低中所得層を中心とした草の根的支持を得たことを背景にしている。それは民主党内における「世代交代」「価値観の更新」「主流派 vs 新興勢力」という構図を浮き彫りにしている。

 これが「ニューヨーク市がシーア派ムスリムの市長を選出――アメリカのリベラル・エリートにとっての政治的地震」といった報道記事を生み出すことになった。言うまでもないが、従来の国際政治学の枠組みにおいては、リベラル・エリートとはリベラル国際秩序の維持を正当化する体制的知識階層の民主党支持の高学歴・都市部中上層階級を指す。つまりゾフラーンがニューヨーク市長になったことは、リベラル国際秩序の破壊、再編を目指すMAGAトランプ とその支持者たちにとってではなく、むしろその政敵であるリベラル・エリートにとっての脅威であるということである。

 本稿の冒頭で指摘した通り、メディアの報道ではゾフラーンの勝利は、アメリカのリベラル派には熱狂的に歓迎され、MAGAトランプ支持者が対決姿勢を示している。しかし実際にはゾフラーンの目指す改革は一義的には民主党のリベラル・エリートの重鎮たちの旧態依然たる政策に対するものであり、目指す方向は違っても、現在のアメリカの誤ったグローバリズムの方向性は糺さなければならない、との認識はむしろMAGAトランプと共通しているとも言うことが出来る。

 

結語

 

 それゆえマムダーニーの当選の意義を正しく理解するためには、ゾフラーンの思想と行動を「リベラルvs反リベラル」、「グローバリズムvs反グローバリズム」などといった従来のアメリカ研究、国際関係論の枠組みに安易に落とし込むことを厳に慎む必要がある。

 そのためには先ず、表層的なゾフラーンの政治的発言に惑わされることなく、「ゾフラーン当選現象」を解釈する理論的枠組みを提供する父のマフムード・マムダーニーの研究業績に向かい合い、その真の新しさを明らかにする必要があると筆者は考える[7]。しかしそれについては次稿以降の時評の連載の中で取り組んでいくことにしたい。


[7] マフムード・マムダーニーはアフリカおよび国際政治、植民地主義とポスト植民地主義、知の生産の政治に研究の焦点を当てており、ポスト植民地国家を理解するには植民地国家の制度的構造の分析が必要であると論じている。ペルシャ語版のウィキペディアに即して彼の立論を整理すると、アフリカの植民国家の本質は①都市部で実施され市民社会の権利から「土着民」を排除する中央集権的な文民的権力に基づく直接統治と、②農村部で国家が「部族的権威」を媒介として慣習的秩序を強制する間接統治の二重構造からなる「分権的専制」となる。彼によると、この植民地国家は「ヤヌス的(二面性)国家」と呼ぶべきもので、単一の覇権的枠組みの下に二重の権力を併せ持ち、脱植民地化後も、都市部はある程度人種差別から解放されたが、農村部は依然として植民地的権力の支配下に置かれたままであり、保守的な支配者も権威主義的な急進派もその権力基盤をこの構造の上に築いており、保守・革命のいずれの形であれ、ポスト植民地国家は植民地国家の二重構造の遺産を部分的に再生産しつづけている。私見によると、ゾフラーンのニューヨーク市長としての政策も、このアメリカもその一種に分類されるポスト植民地国家に残存する二重構造の負の遺産の払拭、という観点から読み解くべきものである。

 

文:中田考

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 (中略)

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(「はじめに」より抜粋)

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ALL ABOUT THE U.S. PRESIDENTIAL POWER

How much do you know about the worlds’s most powerful person―the President of the United States of America? This is the way how he wins the Presidential election, and how he rules the White House, his mother country, and the World.

<著者略歴>

高市早苗(たかいち・さなえ)

1961年生まれ、奈良県出身。神戸大学経営学部卒業後、財団法人松下政経塾政治コース5年を修了。87年〜89年の間、パット•シュローダー連邦下院議員のもとで連邦議会立法調査官として働く。帰国後、亜細亜大学・日本経済短期大学専任教員に就任。テレビキャスター、政治評論家としても活躍。93年、第40回衆議院議員総選挙奈良県全県区から無所属で出馬し、初当選。96年に自由民主党に入党。2006年第1次安倍内閣で初入閣を果たす。12年、自由民主党政務調査会長女性として初めて就任。その後、自民党政権下で総務大臣、経済安全保障大臣を経験。2025年10月4日、自民党総裁選立候補3度目にして第29代自由民主党総裁になる。本書は1992年刊行『アメリカ大統領の権力のすべて』を新装重版したものである。

 

 

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中田 考

なかた こう

イスラーム法学者

中田考(なかた・こう)
イスラーム法学者。1960年生まれ。同志社大学客員教授。一神教学際研究センター客員フェロー。83年イスラーム入信。ムスリム名ハサン。灘中学校、灘高等学校卒。早稲田大学政治経済学部中退。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。カイロ大学大学院哲学科博士課程修了(哲学博士)。クルアーン釈義免状取得、ハナフィー派法学修学免状取得、在サウジアラビア日本国大使館専門調査員、山口大学教育学部助教授、同志社大学神学部教授、日本ムスリム協会理事などを歴任。現在、都内要町のイベントバー「エデン」にて若者の人生相談や最新中東事情、さらには萌え系オタク文学などを講義し、20代の学生から迷える中高年層まで絶大なる支持を得ている。著書に『イスラームの論理』、『イスラーム 生と死と聖戦』、『帝国の復興と啓蒙の未来』、『増補新版 イスラーム法とは何か?』、みんなちがって、みんなダメ 身の程を知る劇薬人生論、『13歳からの世界制服』、『俺の妹がカリフなわけがない!』、『ハサン中田考のマンガでわかるイスラーム入門』など多数。近著の、橋爪大三郎氏との共著『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)がAmazon(中国エリア)売れ筋ランキング第1位(2021.9.20現在)である。

 

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